Chikushino, Fukuoka

#店舗設計
#リノベーション

料膳にし川さま

空間は器、
主役は料理と人。

食材を選ぶ目と建材を選ぶ目は、
どこか似ているのかもしれない。

長い板前修行を経て西川さんが選んだのは
商業空間専門の設計事務所ではなく、想創舎。

本物を選ぶ、自然により近いものを選ぶ、
そんな考え方が一致したからこそ、
「料膳にし川」の空間が生まれた。

Interview with Sososya client 施主さんを訪ねるインタビュー 晴れの日も、雨の日も。
料膳にし川さま
料理の世界を、生きぬいてゆく。

地元の野趣あふれる料理が堪能できる名店、「料膳にし川」。ガラスの器に素麺瓜、鬼灯(ほおずき)の中にうずら卵の味噌漬け、南瓜の裏ごしと豆乳の二色寒天のせ…晩夏を迎えるその日の前菜には、初物や季節を少し先取りする“はしり”の味を大切にした繊細な品々が並ぶ。美味しさはもちろん、日本の四季の美しさ、そして食べることの楽しさを教えてくれる。そんな「料膳にし川」のオーナーであり料理長の西川雅敏さん。太宰府市から筑紫野市へ移転し、住宅街の中に店を構えたのは2021年のこと。移転しても尚、常連さんは通い続け、また新たな常連さんも増えていった。お食い初めに還暦のお祝いにと、ご家族で利用される地元の方も多い。今では予約しなければ入れない人気店となった。

順風満帆に見えるその道のりだが、決して平坦なものではなかった。西川さんが料理人を目指したのは中学生の時。小さい頃からお母さんの手料理がおいしくて食べることが大好きな少年だった。中学卒業してから修行に出たかったがご両親の希望もあり高校を出てから単身大阪の老舗料亭へ。まだ当時は厳しい師弟関係が当たり前に存在していた時代。最初は掃除、鍋磨き、三年目にようやく魚の下処理を担当、包丁を握る。それでもまだ味付けはさせてもらえず、鍋に残ったタレをそっと舐めて味を覚える…そんな下積み時代を過ごしていたという。同期が辞めていく中、地元福岡で店を出したいという夢が西川さんを支えていた。関西で約十年、さらに関西と福岡の食文化もまた少し異なるため、福岡に戻って九州の味を研究して更に十年。足掛け約20年、39歳にして念願の自分の店を持つことになる。それが「料膳にし川」だ。

料膳にし川さま
料膳にし川さま
料膳にし川さま
料膳にし川さま
大切なのは、自然であること。

西川さんは自ら足を運び食材選びを行う。筑前町や朝倉などの地元の野菜を選び、自分で見て、これがいいと納得したものだけを仕入れる。お肉は佐賀まで足を伸ばして雌牛を専門に育てている生産者の方から、冷凍をせず鮮度の高いまま直接仕入れており、魚は毎朝その日に上がったものを選び抜く。とりわけお米は日本食の要となる存在。

「ずっと探していく中で、たまたま良い出会いがあって。田んぼの様子も見させていただいたら、とても丁寧に生産されている方で。今は朝倉のその米農家さんが育てたお米だけを仕入れています」と西川さん。実際に足を運び自分の感覚とそこで得た情報から判断する。空間もそうだった。「それも、たまたまで(笑)。いつも車で通る道沿いに、良い雰囲気の建物(想創舎モデルルーム兼事務所)があるなぁと妻と話していて、なにげに立ち寄ったんです。それで中に入るととても自然だなぁと思って」と当時を振り返り笑顔がこぼれる。西川さんは「自然」という言葉をよく使う。そこには「手をかけすぎない、加工しすぎない、自然の良さを引き出すことこそが重要だ」という想いがあるように感じる。想創舎が手がける空間は本物の素材、自然素材にこだわっている。それが西川さんのお料理との共通点だった。

料膳にし川さま
お竈さん(おくどさん)に見守られて。

当時、設計を担当したスタッフは「西川さんのお料理に負けないくらい、空間も本物志向でなくては」そう感じたと語る。竹組みや無垢の木材をインテリアに取り入れたり、足もとのモルタルには「墨」を混ぜて重厚感と深みのある黒に仕上げた。さらにお料理を引き立てる照明はお客様にとって眩しくないように、しかしお料理は映えるように特殊なライトを設置。あくまでも空間の主役はお料理、そしてお客様。広々とした九州産の一枚の杉板で作ったカウンターは、通常の2倍くらいの奥行きがあり、お客様が触れる部分は自社大工がカンナをかけ角をとり優しく丸めている。そんなカウンター席を指名して予約される常連さんも多い。西川さんご自身もまた仕事終わりに座るのは、このカウンター席。「向こうの小窓から緑が見えて、秋頃は紅葉も見えます。そして、その手前にはおくどさん(お竈さん)が見える。ここが私の定位置です」。おくどさんとは、お米を炊く竈(かま)のこと。竈で炊く朝倉産のお米は、一粒一粒がふわりと立ちあがり、口に入れるとほのかに甘い。「お客様の前で竈でご飯を炊き、せいろで蒸して、お食事と一緒にお出ししたくて。おくどさんを絶対に置きたいって伝えたんです」。竈の蓋を開け、湯気が立ち込める中でご飯をよそっていたり、手際よく鰹節を削っていたり、串焼に塩を振っていたり、料理の過程をカウンターから目で愉しめる。その時点でカウンターで待つ客人はこの料理が間違いないものだと確信することだろう。

料膳にし川さま
食も空間も生き方も、「真味只是淡」。

「コース料理は単調にならないように気を配ります」と西川さん。「夏は前菜でパッと明るく爽やかに、また落ち着いてからメインをお出しして、最終的にデザートでまだ落ち着くように」。そこには客人を喜ばせるお料理の調べがある。空間も同じく、入口は洞窟をイメージしたアーチがあり、歩き進むと左手には半個室のカウンター、奥に個室がある。その手前にはテーブル席が並び、無垢の木があしらわれた五連窓からは木漏れ日があふれ、落ち着いた空間が広がっている。「次の店舗?全く考えていません。むしろこの空間のまま、客数を減らしてもいいかな。これからは、もっとシンプルに。炊きたてのご飯と炭で焼いた魚、そこに手の込んだ一品を添える。そんなシンプルな料理を追求していきたいんです」と語る。店内にはそんな西川さんが大切にしている言葉が飾られている「真味只是淡(しんみはただこれたんなり)」。濃いお酒、辛い甘いものなどは本物の味わいでない。「真の美味しさとは水や空気のように淡泊なものである」という中国古典「菜根譚(さいこんたん)」にある言葉だ。まさに西川さんのお料理そのものであり、よりシンプルになっていく、西川さんの生き方そのもの。これからも食への探求心は尽きることはない。この空間は、西川さんの理想を叶える器として、これからも共に時を重ねていく。

料膳にし川さま
想創舎にとって竈づくりは初のこと。自社の左官職人がわざわざ竈を作る現場へと足を運び修行させてもらい修得したのだとか。
料膳にし川さま
「厨房とカウンターとの距離は程よい緊張感が生まれていいです」と西川さん。
料膳にし川さま
「料膳にし川」の空間には天然素材を贅沢に使っている。時を重ねるごとに風合いが増してゆく。
料膳にし川さま

空間は器、
主役は料理と人。

所在地
福岡県筑紫野市
竣工年月
2021.7
延床面積
102.34㎡
既存101.54㎡/増築0.80㎡

これまでの「晴れの日も、雨の日も。」